デンマーク出身のヘビーメタルバンドPretty Maids。ギタリストでバンドリーダであるケン・ハマーとボーカルのロニー・アトキンスを中心に結成されたのが1981年なので、40年以上活動を続けていることとなる。いわゆる老舗バンド。
ハードロック・ヘビーメタルの老舗バンドはそれなりの数がありますが、活動休止期間が長かったりと作品数の少ないバンドも多い。ですが、Pretty Maidsは2~3年に一度はアルバムをコンスタントに出し続けていて、2021年現在ライブアルバムも含め累計20作品を排出しています。※2020年にはロニーがステージ4の癌と診断されましたが。癌の発覚以降も治療を続けながら精力的に活動を行っています。
今日とりあげる作品は、1992年リリースの「Sin-Decade」彼らの作品群の中で私が最も好きな一枚です。アルバムタイトルからお分かりのように、バンド結成10周年目という一つの区切りの年に発売された本作ですが、よくある10年の総括的な作品では無く、バンドの新たな方向性を打ち出した野心的な作品となっています。
というのも、本作のリリースに漕ぎつくまでには多難な道のりであったからです。遡ること2年前、バンドは3枚目のオリジナル作「Jump the Gun」をリリースします。美しいコーラスワークと広がりのあるシンセサイザーを多用し、北欧メタルの様式美を感じさせる力作でしたが、売り上げは低迷。予定されていたDeep Purpleとのアメリカツアーは暗礁にのりあげる事になります。
この出来事は、予てからアメリカ進出を目標にしていたバンドにとって大きな悲劇でした。そして不幸は続きます。バンドからキーボド、ベース、ドラム、ギター奏者が脱退。残るはケン・ハマーとロニー・アトキンスの二人だけとなります。バンドにとって深い落胆と、存続の危機を結成10周年を目前に迎え、どん底の状態から作り出されたのが本作なのです。
自らの10年間を「SIN=罪」としたのは、過去との決別だったのでしょう。本作からは、残された2人の意地と変化が伝わってきます。まず、バンドのアイデンティティであった北欧的なロマンチズムを捨て、ストレートで骨太のヘビーメタルスタイルへの方向転換。
もともと、曲作りの上手いバンドでしたので、この方向転換は明らかにプラスに働きました。ギターリフは普遍的であり、よりソリッドに聞こえ、ボーカルはより力強くなり、楽曲のパワーと破壊力は、過去のものに比べ段違いに。全曲シングルカットできるようなポテンシャルの高い楽曲が所狭しと並んでいます。
とにかく楽曲の出来が素晴しいんですよね。アルバムオープニングナンバーの「Running Out」や4曲「Sin-Decade」、6曲目「Raise Your Flag」などのハイテンポの楽曲で聴かれるような切れ味鋭い疾走感。
2曲目「Who Said Money」や5曲目「Come On Tough, Come On Nasty」、7曲目「Credit Card Lover」などのミディアムテンポの楽曲での、粘っこいグルーブとパンチの効いたメロディーライン。
8曲目「Know It Ain’t Easy」はアルバムで異色のアコースティックナンバーで、爽やかなポップスですが、メロディーラインはそんじょそこらのポップバンドのそれより、遥かに滑らかでキャッチー。
と、こんな感じで良曲ばかりなのですが、彼らは最後にとんでもないキラーチューンをぶち込んでしまいました。
それがラストソング11曲目「Please Don’t Leave Me」
はい。ラストソングにシン・リジィのカバー曲を持ってきています。多分、アルバム構想の段階で1曲カバーを入れる予定だったのでしょう。ギターのケン・ハマーはシン・リジィフリークと聞くので提案したのはケンかもしれませんが、多分、本人たちも軽い気持ちであったはずです。
それがいざ録音してみると、ロニーのボーカルが曲調と神がかり的にマッチしてしまい、予想を上回る出来栄えとなり、アルバム中盤あたりに転がしておく事もできず。アルバムの〆にしてしまった。そんな流れだと思います。
これが、ハードロック史上最高のバラード曲と言われ、日本のロック誌の投票で1位になり、バンドの代表曲となることは、当時の彼らは予想もしていなかったでしょう。それが良いか悪いかはともかく、この最強のキラーチューンばかり話題となるアルバムとなってしまったのは、残念なような気もします。それほど良い楽曲が詰まっていますので、是非聴いてみてくださいね♪
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