西洋の色彩文化史
■先史時代の色彩
約35万年前:赤土(レッドオーカー)を用いて身体に染色を行う
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約7万年前:ネアンデルタール人が棺にレッドオーカーを散布(人類の赤色信仰がこの頃からあったと考えられる)
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人類が「もの」に色を施すようになる
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B.C.6000年前後:赤・青・黄の三種類の染料が存在。世界各地で染色が行われる
■世界に残る色材の痕跡
【顔料を用いたもの】
カピバラ遺跡(最古の壁画)
アルタミラ洞窟・ラスコー洞窟:赤土、黄土、マンガン鉄、方解石などの鉱物顔料の使用
【染料を用いたもの】
スイス湖上住宅跡:モクセイソウ(黄)の種が発見される
チャタル・ヒュユク遺跡:人類最古の定住遺跡。アカネソウ(赤)、タイセイ(青)、モクセイソウ(黄色)で染色されたウールの断片が残っている
プロバンス地方:タイセイ(青)で染めた布が発見される
■古代エジプトの色彩
【エジプト神話と色】
色彩が呪術的につかわれる。特に復活の象徴である緑は信仰の対象となった
青:ナイル川の神で、神々の父とされたハピの身体の色
赤:最高神である太陽神ラーの色
緑:冥府、農業、再生復活の神であるオシリスの色
白:銀河からしたたるハピの乳の色
黒:肥沃の象徴であり洪水を起こす嵐の神セトの色
【古代エジプトで使われていた顔料・染料】
■顔料
孔雀石を砕いたマラカイトグリーンをアイシャドーとして使用
ケイ酸銅カルシュウムの製造を開発、アレキサンドリア・ブルー(エジプト・ブルー)と呼ばれる色材がつくられる⇒人類最初の人工合成顔料
■染料
インディゴや紅花で布地を染色
■古代ギリシアの色彩(B.C1200~B.C146年頃)
【思考の対象としての色彩】
色彩は哲学的な思考の対象であった
ピタゴラス、エンペドクレス、デモクリトス、アリストテレス
【神々の色彩】
古代エジプトと同じように色彩は神々の属性とされる。パルテノン神殿:華麗な色彩で装飾されていた。
【生活の中の色彩】
地味な単色の世界
■黒絵式:赤褐色地の上に黒で図柄を描く
■赤絵式:黒地の上に赤褐色で図柄を描く
■テトラクロマティスム:黒、赤褐色、黄褐色、ベージュの4色だけを使用する技法。「イッソスの戦い」
■古代ローマの色彩(B.C753~480年頃)
古代ローマ時代初期:グレコ・ローマンスタイル(ギリシャの地味な色彩を受け継いだスタイル)
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文明の爛熟とともに華麗な色彩文化が発達。例:ポンペイの彩色壁画
【ポンペイの色彩壁画】
ポンペイレッド、ポンペイグリーン、アレキサンドリアブルーをはじめとする多くの色材が使用される。補色を使ったコントラスト配色
【着衣の色】
トーガと呼ばれる生成りのウールの上着を着用。次第に色彩が職業や権威などを表すようになる
貝紫:皇帝以外の着用を禁じられた禁色
黄色:婦人たちの流行色
赤:兵士
青:奴隷、青は蛮族を象徴する色とされた
■中世の色彩(5~15世紀)
キリスト教と政治権力が結びつき、キリスト教色彩神秘主義が社会の規範となった時代
【中世の建築】
ゴシック様式の聖堂、内部はステンドグラスで彩られる(文字の読めない人々に聖書の教えを伝える視覚言語となる)
【身分による服装色の規定】
法王:白、枢機卿:赤、司教:紫、司祭:黒
帰属階級による服装色の規定
貴婦人:深紅色、労働者:青、売春婦:黄色
【イスラム教の誕生】
ユダヤ人、アラブ人、異端者、ハンセン病患者、売春婦⇒黄色のマークをつけて区別
【紋章】
11世紀末の十字軍の遠征を契機に、敵と味方を区別するための視覚言語として生まれる。スコットランド高地人はタータンチェック(綾織物の色格子柄)を家紋として用いる
■ルネサンスの色彩(15~16世紀)
中世のキリスト教封建主義からの解放、古代ギリシャ・ローマの人間中心主義を規範とする。ルネサンスとは「文芸復興」という意味。大航海時代の到来により世界各地から新しい顔料や染料がもたらされる。
【新たにもたらされた色材】
ウルトラマリン:アフガニスタンから輸入されたラピスラズリ。別名「マドンナブルー」「ラファエロブルー」
コチニール:メキシコ・ペルーからもたらされた。権力や富のシンボルとなる
インディゴ:インド航路によりもたらされる
【ルネサンスの絵画】
ジョット:ジョットブルーと黄・オレンジの対比
テッツィアーノ:ベネチア派の画家、「バッカスとアリアドネ」
ダ・ヴィンチ:線遠近法、空気遠近法、後年スフマートを提唱
ミケランジェロ:天地創造の大壁画
■バロックの色彩(17世紀)
【キアロスクーロ】
明暗を主として、対象を影の中に浮かび上がらせて描く技法
【黒の流行】
黒い服が、王侯貴族から庶民階級に至るまで幅広い層の人々に着用された。メキシコで黒の染料となるログウッドが発見される。
【白への憧憬】
王侯貴族は、中国の景徳鎮から輸入される白い食器をこぞって収集する(権威や財力の象徴)。錬金術師ヨハン・ベッドガーが1710年に白い磁器の生産に成功
■ロココの色彩(18世紀)
【白の流行】
白い鬘、白い服、白粉で化粧
【ボンパドール・ピンクの流行】
科学者エローがボンパドール・ピンクという釉薬を開発。ファッションや室内装飾でピンクが流行となる
【フランス革命と色】
色彩が主義や貴族集団を表す重要な役割を果たす
王党派の旗の色:白と青
革命派の旗の色:赤と青、白
ドラクロア「民衆を導く自由の女神」
中央に描かれた女性が三色旗をかざしている
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